新型コロナウイルス(2019-nCoV)が騒がれている今日、皆さんはどのように消毒対策をしていますか?
手っ取り早い対策として、「アルコールを手に吹きかける」というのは良く聞く対策かもしれません。
『アルコール=殺菌』というイメージを持つ人も多いのではないかと思いますが、そもそもアルコールがどうやって細菌に効いているのか、詳しく知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。
自分自身、学生時代は細菌の研究をしてきましたが、殺菌したいときには、とりあえず『アルコール(70%エタノール)』を使っていました。
そこで、今一度殺菌剤について整理していこうかと思います。
目次
ポピュラーな殺菌成分は3つ!
殺菌作用のある物質にはいくつか種類がありますが、ポピュラーなのは以下の3つでしょう。
1.アルコール(エタノール)
”殺菌”と聞いて最もイメージがしやすいものがこちらの、アルコール(エタノール)ではないでしょうか。
アルコールの作用機序は?
作用機序としては、『たん白変性』『代謝機構の阻害』『溶菌作用』というもの。
広く、様々な場所で使われていますが、僕も学生時代に研究室で殺菌をするときに使用していました。
コロナウイルスのようなエンベロープ(膜)をもつウイルスはアルコールでも殺菌する(膜を破壊する)ことができます。
ちなみに、殺菌には高濃度(約70%)のアルコールを使用しますが、濃度が高ければいいというものでも無いんです。先ほど、作用機序のところで、たんぱく質変性、代謝機構の阻害、溶菌作用の3つを書きましたが、濃度が関わってくるのが主に溶菌作用の部分。
溶菌(ようきん)とは、細菌の細胞が細胞壁の崩壊を伴って破壊され、死滅する現象のことです。
なぜこれが起こるかと言うと、アルコールは細菌の細胞に触れると、その浸透圧で細胞内に流入します。すると、細胞は水風船のように膨らんでいき、やがて圧力に耐えられなくなって破裂します。この現象のことを”溶菌”と呼んでいるんです。
その浸透圧の差で溶菌させようとするときに、アルコールの濃度が低いと浸透圧の差が少ないため流入する量が少なくなってしまい、逆に高すぎる(例えば100%エタノール等)と細菌の細胞内に流入する際の浸透圧と、流入したアルコールが細菌内部から外へ広がる圧力が互いに弱め合うためにうまく溶菌しないという問題があります。また、アルコールは非常に揮発しやすい物質なので、濃度が高いと作用する前に揮発してしまうという問題もあります。
では、なぜ70%なのかというと、濃度が70%の時にアルコールと水の分子組成が1:1になるため、疎水基が平面上に並んで広い疎水面を作るからだと言われています。
学生時代の記憶が蘇って、つい長々と書いてしましましたが、要は、アルコール(エタノール)の場合は約70%のものが一番殺菌効果があるよと言うことです。
2.次亜塩素酸ナトリウム
次亜塩素酸ナトリウムは、駅や学校などで吐しゃ物や排泄物、水道の消毒薬としても使用されているものです。
使用するときには1,000ppm程度の濃度の薄いものを使用しますが、そのまま保存すると殺菌効果が失われやすいため、保存は高濃度で行い、使用するときに薄めて使います。
次亜塩素酸ナトリウムの作用機序は?
次亜塩素酸ナトリウムは次亜塩素酸や塩素を生成します。
発生した次亜塩素酸や塩素が、酵素,核たん白の酸化による不活化、細胞膜と結合し代謝を阻害、膜の透過性を変化させることにより殺菌作用を示します。
こちらも、コロナウイルスには有効です。
3.次亜塩素酸水
弱酸性次亜塩素酸水 除菌モーリス スプレータイプ(400mL)
最近聞くようになったのが、この『次亜塩素酸水』。
次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムは、名前こそ似ていますが異なる物質です。次亜塩素酸水は塩酸又は食塩水を電解することにより得られる次亜塩素酸を主成分とする水溶液のこと。
次亜塩素酸水の作用機序は?
次亜塩素酸水には、殺菌基盤となる次亜塩素酸の他、過酸化水素 やヒドロキシラジカルが含まれています。これらが細胞膜やタンパク質、核酸を酸化させることで殺菌効果を得ることができます。
これもまた、コロナウイルスには有効!
どの場面でどの殺菌剤を使えばよいのか
殺菌効果のあるものはいくつか思いつくものの、どれをどの場面で使うべきなのかがわからないことも多いと思います。
そこで、ここではどんなものに対して何を使って殺菌したらよいのかを考えていきたいと思います。
それぞれのメリットとデメリットは?
そこで、一度それぞれの殺菌剤のメリットとデメリットを整理していきます。
メリット | デメリット | |
エタノール |
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次亜塩素酸
ナトリウム |
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次亜塩素酸水 |
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使い分け① どこまでのものを殺したいか
メリットデメリットを整理しましたが、ここでは菌の種類について説明していきます。
”菌”やら”ウイルス”やら、微生物を分類する用語はいくつかありますが、まずはこれらの特徴から整理します。一般的に、殺菌剤に対する抵抗力は
『芽胞菌>ウイルス>真菌>一般菌』
の順で強いとされています。
芽胞菌は、耐久性の高い『芽胞』という細胞構造を持つため、殺菌剤だけでなく高温(100℃で煮沸しても死なない)にも強いのが特徴です。主な例としては、破傷風菌やボツリヌス菌、納豆菌などが挙げられます。
ウイルスは、よく聞くフレーズかと思いますが、”菌”とは異なるものです。菌が自己増殖できるのに対して、ウイルスは自己増殖はできません。”生物”としては不完全ではありますが遺伝子を持っているため、言ってしまえばウイルスは「生物と非生物のあいだ」なのです。また、単にウイルスと言っても外膜の有無によって消毒のしやすさが異なります。ウイルスの主な例としては、インフルエンザウイルスやノロウイルス、HIVなどが挙げられます。また、最近問題になっている”コロナウイルス”はエンベロープという膜を持つウイルスですが、こちらは膜を破壊することで殺菌が可能なので、市販の消毒剤はおおよそ有効です。
真菌は、僕たちの日常生活と最も関わりの深い菌かもしれません。染色体を包む”核”を持ち、成長とともに菌糸や子実体を形成する菌です。ここまでではあまりよくわからないかもしれませんが、真菌の主な例としてキノコの仲間や水虫が挙げられます。
一般細菌は、いわゆる”雑菌”のこと。水道水や水の汚染具合の基準値なんかにも用いられていますよね。主な例としては大腸菌などでしょうか。
と、ここまで微生物の簡単な説明をしてきましたが、果たしてどこまで殺菌すればよいのか・・・
できれば「すべて殺菌してしまいたい」と思うのはやまやまですが、芽胞菌まで殺すとなれば、それ相応の強い殺菌剤を使わなければならず、毒性が強いため人体への影響が怖いというのもありますし、そもそも家庭で「ボツリヌス菌を倒すぞ!」なんて機会は無いでしょう。
そのあたりの程度を考え、個人的にはウイルスまでを殺すことができればいいのかなと思っています。
エタノール | 次亜塩素酸ナトリウム | 次亜塩素酸水 | |
一般細菌 | ◎ | ◎ | ◎ |
真菌 | ◎ | ◎ | ◎ |
ウイルス | ○~△ | ◎~○ | ◎~○ |
芽胞菌 | × | △ | △ |
※◎○△×は殺菌効果を示す。○以上であれば効果があるものと考える。
それを踏まえ、以上のように表を作成してみました。殺菌剤へのウイルスの抵抗性はまちまちなので少しばらつきはありますが、一般的な消毒用エタノール(濃度70%)ではやや不安があるかもしれません。
使い分け② どこで使うのか
殺菌剤を使うときは、”どこで使うのか”も重要です。
モノによっては効果が無かったり、使用したものを痛めてしまったりする場合もあるので使用の際は場所をきちんと考えて使用しましょう。
以下に用途に応じた効果を表にしておきます。
手指 | 吐しゃ・排泄物 | 非金属 | 金属 | |
エタノール | ○ | × | ○ | ○ |
次亜塩素酸ナトリウム | × | ○ | ○ | × |
次亜塩素酸水 | ○ | ○ | ○ | × |
例えば、病気の人が触った金属製のドアノブを消毒する場合だとエタノールで殺菌するのが望ましいということですね。
まとめ
ひとえに”殺菌”と言っても様々な殺菌剤があります。
殺菌力の強さも重要ですが、対象と用途を考えてきちんと殺菌剤を選ぶということも重要ではないでしょうか。
また、殺菌したいものからきちんと不純物を取り除くなど、殺菌剤が最も良いパフォーマンスができるようにするのも大切です。
ちなみに、僕の会社では『エークイックFORTE』という除菌剤が導入されていました。
これは、ベースはエタノールですが、食品添加物(副剤)を添加することにより表面張力を弱め、液体がより凹凸に行きわたるようにしているのだとか。
※MCSFホームページより
添加されているのが人体に害のない食品添加物なのはありがたい限りですね。キッチンや普段使う生活スペースでも気軽に使えそうです。
また、これにより、エタノール(70%)が若干苦手としていた、ウイルスを殺すこともできるのだそう。
※MCSFホームページより
なお、こちらの商品は、食品添加物が入っているため、”殺菌剤”ではなく”除菌剤”として売られているようです。
強い殺菌効果を示す効き目とは裏腹にスプレー(付属)はなんだかオシャレです。
まだ、導入されたばかりですが、是非とも活躍してもらいたいものです。