突然ですが、僕は大学を卒業してから数年働くなかで、『今の仕事を続けていくためには、自分自身がもっと専門性を身につける必要がある』と痛感し、社会人学生として修士課程から大学院に入り、その後、博士号を取得しました。
この記事では、社会人学生として大学院に入るまでに何をしたのか、そして入学後にどのようなことをしてきたのかを、順を追って書いていきたいと思います。
今回は、大学院へ入学するまでにやったことについてです。
目次
大学院入学前にやったこと
身近な人に相談してみる
おそらく、多くの人が最初に思いつくのは、身近な人に相談することではないでしょうか。
実際、人に相談してみることはとても大切だと思います。
誰かに話そうとすると、「なぜ大学院へ行きたいのか」「大学院で何をしたいのか」といったことを、自分の中でも整理する必要があります。
また、自分の考えを言葉にすることで、相手にも今の状況や悩みを知ってもらうことができます。
その人が自分の力になってくれそうかどうかも、相談してみることで少しずつ分かってきます。
僕の場合、会社に入って1年ほど経った頃、自分の知識や技術が明らかに足りていないと感じるようになりました。
もともと、自分が大学で専門的に学んだ分野とは少し違う技術職として働いていました。
周りには、大学でその分野を専門に学んできた人や、修士号、博士号を持っている人もいました。そのため、自分の実力不足を感じやすい環境だったことは否めません。
そんな状況だったので、まずは一番身近な先輩に相談してみました。
そのときに返ってきた言葉が、
「お前、バカじゃねえのか? 学者にでもなるつもりか?」(原文ママ)
でした。
まあ、こういうこともあります。
自分の悩みに対して、誰もが肯定的な反応をしてくれるとは限りません。
ただ、実際にその言葉をもらったことで、「自分の実力不足を補いたい」というだけでは、大学院へ進学する理由としては少し弱いのかもしれない、と考えるようになりました。
大学院を卒業したあとに自分はどうなりたいのか、会社にとってどのような意味があるのか。そういったことも考える必要があると感じました。
それから6年後、今度は別の先輩に相談しました。
その先輩はすでに博士号を持っている方で、僕の考えにはおおむね賛成してくれました。一方で、博士課程が決して楽ではないことも、率直に教えてくれました。
それでも、「できることがあれば力になるよ」と言ってもらえ、その言葉に背中を押してもらいました。
研究室を探す
次はいよいよ研究室探しです。
仕事の関係ですでに心当たりのある研究室がある人もいると思いますが、僕の場合は特にあてがありませんでした。
そこで、まずは論文を探すところから始めました。
例えば、
- 自分と同じ研究フィールド
- 自分と近い専門分野
- 興味のある解析方法
- 面白いと思った論文のストーリー
など、いくつかの切り口から探してみます。
論文を最初から最後まで読もうとすると、難しい数式や解析方法、専門用語がたくさん出てきて、「これは無理かもしれない」と感じることもあると思います。
自分が目指している方向に近い研究なので、すんなり理解できることもありますが、もちろん難しいこともあります。
そのようなときは、Introduction(はじめに)やDiscussion(考察・結論)を中心に読み、「どのような研究なのか」「何が分かったのか」を確認するだけでもよいと思います。
今はAIを使って論文を要約することもできるので、そうしたものを活用してみるのも一つの方法です。
まずは、気になる研究や研究者を少しずつ見つけていきましょう。
その研究者が大学に所属しているのであれば、その研究室に連絡してみます。
もし大学以外の研究機関に所属している人であれば、その人の出身研究室を調べてみてもよいかもしれません。研究室のホームページには、卒業生の名前や進路が書かれていることもあります。
大学院では、どこかの研究室に所属することになります。
そのため、受験前に希望する研究室へ連絡し、事前に話をしておくことはとても大切です。
はじめの連絡はメールで構いません。
自己紹介をしたうえで、自身が今どのような課題を感じているのか、どのような研究をしてみたいのかを伝えます。
また、その研究室ではどのような研究をしているのか、自分の希望するテーマを扱うことができそうかなどを聞いてみてもよいでしょう。
さらに詳しく話を聞いてみたいと思ったら、研究室へ直接伺ったり、オンラインで面談をお願いしたりしてみます。
研究室探しがすぐにうまくいけばよいのですが、いくつもの研究室を見る必要が出てくることもあります。
場合によっては、5か所、10か所と研究室を回り、話を聞くことになるかもしれません。
そのため、すぐに決まらなくても焦らず、根気よく探していくことが大切だと思います。
また、行きたい研究室が遠方にある場合は、その距離でも本当に通い続けられるかを確認しておいた方がよいでしょう。
今はオンライン講義やリモートでのゼミ参加を取り入れている大学や研究室もあります。そのため、住んでいる場所と大学が離れていても、通える場合はあります。
ただし、節目ごとに大学へ行く必要が出てくることもあるので、その点は事前に聞いておくと安心です。
あわせて、学費や入学料についても調べておきましょう。
これらは、研究室の先生というより、大学の学務担当に確認する内容になります。
入学料や授業料など、節目ごとにまとまったお金が必要になります。
そのため、「今の生活を続けながら、本当に学生としてやっていけるのか」は、事前に考えておく必要があります。
授業料の免除制度や奨学金制度があるかどうか、その条件は何か、といった点も聞いておくとよいと思います。
会社へ大学院進学したいことを伝える
社会人学生として大学院へ進学する場合、会社にも伝えておく必要があります。
研究室探しと会社への相談は、どちらを先にするか迷うところですが、これは状況に応じて前後してよいと思います。
先に会社へ話しておいた方がよさそうであれば、こちらを先に進めます。
修士課程では講義も多いため、2年間で修了を目指すのであれば、週に何日かは大学のために時間を確保する必要があります。
博士課程では講義は少なくなりますが、それでも数科目は履修することになります。毎週数時間の休みを、数か月にわたって取る必要が出てくることもあります。
そのようななかで、
- 勤務時間を調整できるのか
- 毎週数時間、大学院のための時間を作れるのか
- 仕事以外の時間をどの程度研究に充てられるのか
といったことは、事前に確認しておいた方がよいでしょう。
多くの大学では、募集要項やカリキュラムを事前に確認することができます。
修了するためにどのくらいの講義を受ける必要があるのか、何単位必要なのかを確認したうえで会社へ相談すると、話がしやすくなると思います。
僕も、「仕事と大学院生活をどのように両立するのか」をまとめた資料を作り、それをもとに会社と話をしました。
その結果、進学を認めてもらうことができました。
また、社会人入試を受ける場合、大学によっては勤務先の承諾書や在職証明書などの提出を求められることがあります。
そのため、会社には事前に話しておいた方が安心です。
ちなみに、在学中に大学から会社へ連絡が入ったことは、僕の場合はありませんでした。
社会人入試を利用できなくても、一般入試を受けることはできます。
ただし、大学によっては社会人入試の方が試験科目が少なく、受験しやすい場合もあります。
それぞれの試験内容を確認し、自分に合った方法を選ぶのがよいと思います。
入試の準備をする
ここまで順調に進んだら、いよいよ入試の準備です。
まずは募集要項を確認し、試験科目を把握しましょう。
一般入試では、「英語(TOEICスコアの提出を求められる場合もあります)」「専門科目」「研究計画のプレゼンテーション」などが課されることが多いと思います。一方、社会人入試では、一部の試験科目が免除されることがあります。
僕が受験した大学では、「研究計画のプレゼンテーション」のみが試験科目でした。
一応TOEICも受験していたのですが、あまり良いスコアではなかったので、その点では助かりました。
ただし、TOEICスコアの提出が必要な大学では、試験を受けてもすぐにスコアが発行されるわけではありません。出願に間に合わないということがないよう、余裕を持って受験しておくことをおすすめします。
また、専門科目が試験に含まれている場合は、過去問が学務窓口でもらえることがあります。事前に確認し、手に入るようであれば早めにもらっておきましょう。
そして、大学院入試で最も重要になるのが研究計画です。
ほとんどの大学院では、入試の段階で研究計画書の提出やプレゼンテーションが求められます。
研究計画では、研究対象にどのような課題があり、その課題をどのような方法で明らかにしていくのかをまとめていきます。
言ってしまえば、「論文のストーリー」を考える作業に近いです。
これから研究を始める人にとっては、なかなかイメージしづらいかもしれません。
そのような場合は、自分がやりたいテーマに近い論文を探し、「どこまでが分かっていて(既知の知見で)、どこがまだ分かっていないのか」を整理すると、研究計画が考えやすくなります。
まずは一度、自分なりに研究計画を書いてみましょう。
そのうえで、進学を希望している研究室の先生に見てもらえるようであれば、意見をいただくのもよいと思います(このあたりは先生によって考え方が違うので、事前に確認しておくと安心です)。
もちろん、入学後には研究計画どおりに進まないこともありますが、この段階では「どのような研究をしたいのか」をきちんと説明できることが大切です。
また、大学院入試では、よほど倍率の高い大学や研究科でない限り、「提出書類をきちんと揃えること」がとても重要だと感じました。
もちろん試験そのものも大切ですが、提出書類に不備があれば、それだけで審査の対象外になってしまうこともあります。
僕が受験したある国立大学では、一般入試でTOEICスコアの提出が必須でした。
スコア自体は決して良いものではありませんでしたが、募集要項どおり提出していたことで問題なく受験することができました。
もちろん、これは大学によって事情が異なりますし、人気の大学や研究科では十分な学力も必要になります。
ただ、「必要な書類を漏れなく揃える」という当たり前のことが、実はとても大切なのだと思います。
なお、大学によっては、学士の学位から、いきなり博士後期課程へ進学できる制度を設けている場合があります。
その場合は、入試前に資格審査が行われ、研究実績が評価されます。
ここでいう研究実績とは、論文投稿や学会発表、調査報告書などが対象になることが多いようです。
ちなみに僕も当時、学士の学位から、博士後期課程への進学を考えていました。
しかし、資格審査の結果、「博士後期課程への出願資格は認められない」と判断され、最終的には修士課程から進学することになりました。
今となっては、その経験も決して無駄ではなかったと思っています。
いざ受験へ
ここまで準備ができたら、あとは受験です。
願書を取り寄せ、必要書類を揃えて出願します。
受験科目は大学によって異なりますが、「研究計画」のプレゼンテーションは、多くの大学院で行われると思います。
発表時間が決められているので、それに合わせて資料を作り、何度か練習しておきましょう。
もちろん、発表だけで終わることはほとんどありません。
先生方から質問を受けるので、その対策もしておくことをおすすめします。
そして、これはあとから知ったことなのですが、入試で発表を聞いていた先生が、その後の学位審査で副査になることがあります。
そのため、どのような質問を受けたのか、どのような助言をもらったのかは、できればメモしておくと後々役に立つかもしれません。
合格後はどうする?
合否は、多くの大学でインターネット上に公開されます。
まずは忘れずに確認しましょう。
もし合格していたら、お世話になる研究室の先生へ「よろしくお願いいたします」と一言連絡を入れておくとよいと思います。
そして、これはあとになって感じたことですが、入学前から少しでも研究を始めておけばよかった、というのが正直な感想です。
特に博士課程から入学する場合は、3年間という期間は思っている以上に短く感じます。
研究生活に慣れるだけでも時間がかかりますし、最初は思うように進まないことも少なくありません。
だからこそ、先生と相談しながら、入学前でも始められることがあれば少しずつ取り組んでおくと、入学後がかなり楽になると思います。
また、もし許可をいただけるのであれば、ゼミにも参加させてもらうことをおすすめします。
研究室の雰囲気が分かりますし、研究の進め方にも早く慣れることができます。
まとめ
社会人学生は、想像している以上に忙しくなります。
仕事と研究、場合によっては家庭との両立も必要になるため、決して楽ではありません。
ただ、その分、自分の専門性を高めることができる、とても貴重な経験にもなります。
大学院へ進学したいと思ったら、できるだけ早いうちから情報を集め、少しずつ準備を進めておくことをおすすめします。
事前の準備がしっかりできているほど、入学後の負担はきっと軽くなります。
この記事が、これから社会人学生として大学院進学を考えている方の参考になれば嬉しいです。