今でこそ、たびたび海外に行き、バックパッカーをしている僕だけれど、大学生になるまでは海外に行ったことなどなかった。
生まれ育ったのが広島だったため、”外国人”と呼ばれる人たちは頻繁に目にしていたけれど、その人たちがどんなところから来ているのか、想像もつかなかったし、”外国”というものにイマイチ実感も湧かなかった。
小中高と『社会』や『地理』の科目の中で”外国のこと”を学びはするものの、本当にそんなものがあるのかと疑問だった。
ただ、そんな中でもそれらの教科は好きで、他の教科の点がいかに悪かろうとも、それらの教科で悪い点を取ることはなかった。
純粋に興味があったし、まだ見ぬものへの圧倒的な好奇心があったから、それらについて知りたいと、心から思っていたからだろう。
そんな僕が、初めて海外に行ったのは大学2年生の夏、19歳の時だった。
初めての海外旅行はタイ
初めての海外旅行を計画するに当たって、まず悩んだのは行き先選びだった。
独りで旅をするバックパッカーに憧れていたということもあるが、そうでなくとも友達が少なかったため旅は1人で行くこととなった。
行き先に求める項目は3つで、
- 比較的安く行ける、過ごせること
- 比較的安全であること
- 情報がたくさんあること
をもとに探した。
そこで見つけたのがタイ。
当時、クーデターの後で多少の混乱はあったが、特に心配するほどの治安ではないという情報もあったため、行き先はタイに決定し、旅の期間は1ヶ月間にした。
”なんとかなるだろう”という甘い考え
行き先が決まったら、早速HISで航空券を手配した。
期間は夏休みの1ヶ月、往復で5万円のチケットは、貧乏学生にとって大きな出費だったけれど、必ず得るものがあるはずだという期待感が背中を押した。
ただ、初めての海外旅行だった僕は、チケットを買ったことで満足し、完全に安心しきっていた。
そう、旅行の滞在費が全く無かったのだ。
もともと、貯金が5万円しかない中で5万円のチケットを買ったので、それ以上のお金などあるわけないのだけれど、それでも大学生特有の
「まぁ、なんとかなるだろう」
と言う楽観的な考えが自分の中にあった。
危機的状況を自覚する
旅行資金がない!
そんな危機的状況を自覚したのは出発1週間前のことだった。
自分のまわりのお金をかき集めても成田空港まで行く程度のお金しかなく、このままでは本当に出発する事自体が危機的だった。
一瞬、命の次に大事なプレイステーション3を売ってお金を作るということも頭をよぎったけれども、とりあえず友人たちをあたってお金を借りることにした。
こうして集まったお金は15,000円。
外国で1ヶ月過ごすにはいささか不安が伴う金額だったため、ここまできても正直なところ出発するかどうかを悩んでいた。
旅立ちの背中を押した餞別
僕のまわりには、T君と言う友人がいた。
T君もまた、先の読めない性格であったため、常に金欠な貧乏学生だったのだが、親から定期的に仕送りが来るようで彼の家には大量の缶詰めが備蓄されていた。
出発全日に僕が
「金を貸してくれ」
と、家に行くと、お金の代わりに、餞別と言って大量の缶詰めをくれた。
自宅に戻り、1ヶ月の食事計画を立てるため、缶詰めの量を数えると、昼夜と食べたとしておよそ2週間は過ごせることが分かった。
人は、水こそ3日摂らないと死んでしまうが、食べ物は3週間摂らなくとも生きられると聞いたことがある。
「これは行ける!」
僕の中で一つの道が見えた。
こうして、T君からもらった大量の缶詰めが、初めての海外旅行へ背中を押したのだった。
いよいよ旅立ち
出発当日は眠れなかった。
人並みな感性ではあるが、明日の今頃は、未知の場所、未知の文化、未知の世界に身を置くと思うと高揚感がハンパではなかった。
そして迎えた朝。
特にばたつく訳でもなく、離陸2時間前に成田空港に到着した。
搭乗機名を確認し、迷うことなく航空会社のカウンターでチェックインを済ませた。
気持ちが高揚していたせいか、
「お預けの荷物はございますか?」
と聞かれたときも
「バカやろう!バックパッカーは荷物なんて預けねぇんだよ」
くらいに思った。
初めての外国、9年ぶりの飛行機だったけれど、
「僕には、友人たちから借りた15,000円と、背中に背負ったリュックには2週間分の食料が入っている」
そう思うと、いざ空港に来てみても不安は無く、むしろその思いに背中を押されていた。
チェックインを済ませた後は出国ゲートへ行き手荷物検査をする。
検査員「君、海外旅行は初めて?」
僕「はい!今まで外国に行ったことなくて、今回初めて1ヶ月の旅をするんです!」
検査員「へぇ、そうなんだ。頑張って!」
検査員「で、リュックの中身だけど、どうしてこんなにたくさん缶詰めがあるのかな?」
僕「旅行資金が無いと友達に言ったら、旅の餞別にくれたんです」
検査員「そうなんだね、でも残念だけど、これは没収だね」
僕「え???」
検査員「液体が入ってるから機内に持ち込めないんだよね」
検査員「じゃ!頑張って!」
僕「え」
こうして、自分の初めての海外旅行は、15,000円で1ヶ月を過ごすという貧乏サバイバルな旅になったのだった。
この経験から学んだこと
- 海外旅行に缶詰は不向き
- 結局お金を持っていくのが一番安心
- 15,000円で一か月外国で生活するのはマジきつい
- 初めての時は謙虚に