皆さんはエジプトの気候に関してどんなイメージをお持ちだろうか?
猛暑?
砂漠?
乾燥?
まぁ、そのイメージの通りだ。
その気温たるや、とても日本では体験ができないものである。
また、特にエジプトの南部の乾燥は凄まじく、アスワンは年平均降水量が0.5mmを記録し、“世界で一番降水量の少ない町”になったこともあるくらいである。
エジプトのルクソールとは
その時は、エジプトのアスワンからナイル川沿いに北上するという旅をしている途中で、ルクソールという街に滞在していた。
ルクソールと言うと、エジプト文明中期の主要都市でもあったため、エジプト文明中でも遺跡の多い街として有名である。
有名な遺跡で言えば、『王家の谷』や『ハトシェプスト女王葬祭殿』、『ルクソール神殿』、『カルナック神殿』などが有名で、これらは世界文化遺産にも登録されている。
街は、ナイル川を挟んで西側と東側に分かれており、東側は生者の街、西側は死者の街として街づくりがされている。
エジプト文明初期の頃から比べるとすっかり国力が弱まり、ピラミッドのような巨大な建造物は作ることができなくなってしまったのだという。
墓荒らしを防ぐだけの国力が残っていなかったことから、この時代の墓はピラミッドのような目立つものではなく、人に見つからないようひっそりと隠すように作られたのだとか。それが王家の谷だ。
また、これらの遺跡を上から眺めることができるツアーで乗る気球は、『世界一安く乗れる気球』として有名である(約7,000円)。
『世界で一番年平均降水量の少ない町』は、さらに南部にあるアスワンだが、ルクソールも南部に位置しているため、年平均降水量は約1mmと、雨はとんでもないくらい少ない(東京は1,500mm)。
滞在のメインイベントの気球ツアーは中止に
僕がルクソールの町に滞在した理由は、数々の遺跡を見るのもそうだけれど、やはり気球が目当てだった。
ただ、隣国のリビアからの砂嵐が来ており、強風により気球ツアーの開催は怪しい状況だった。
そこで、2日間の滞在予定を、急遽3日間に増やし、開催を待つことにした。
が、3日とも天候が悪く、とうとうツアーが開催されることは無かった。
旅とは、往々にして予定通りにはいかないものだけれど、さすがに心待ちにしていたビッグイベントが無くなってしまうと虚しいもの。
代替として遺跡巡りのツアーは組んだものの、どこか気持ちが入っていかなかった。
まわった遺跡のいくつかは名前すら覚えていない。
朝早くからのツアーだったため、遺跡を一通りまわり、昼過ぎには解散となった。
僕はその夜の夜行バスでカイロに向かうことにしていたため、しばらく時間があいてしまった。
そこで、近くのレンタルサイクル屋で自転車を借りて街を巡ることにした。
このとき、こともあろうか持ってきたカメラの充電器が壊れ、充電不能に陥っていた。
電池の残量もやや怪しく、このままではピラミッドを撮る前に充電が無くなることも大いにあり得る。
そんな状況だったため、優雅に街を見物するというよりは、割と死ぬ気で街の電器店を探し回っていた。
年平均降水量1mmの街で雨
自転車で街の電器店を巡っていると、不意に雲行きが怪しくなってきた。
「あれ?雨降るの?まさかな」
と、タカをくくっていたのだけれど、
ポツリ。
雨が降ってきた。
こうなると、あたりは騒然。
普段は雨など降らないため、外に並べられた店の商品の上には屋根など無い。
雨が降り始めたと分かると、本当に皆が一斉に出てきて、商品をしまい始めるのだ。
また、雨が近づくと、気圧の変化で強い風が吹く。
普段は極度に乾燥しているため、少しでも風が吹くと砂塵が舞う。
それが強い風なのだから、半ば砂嵐のように、前が全く見えなくなるのだ。
巻き上がった砂塵が、銃弾のように顔や肌に吹き付けてくる。
「痛てぇーーー!」
避難するところがどこにもない道の上では、痛みを我慢してひたすら進むしかないのだ。
痛みを少しでも紛らわせるため、「痛てぇーーー!」と叫びながら前に進んだ。
それはまさに叫んでいる最中。突然口の中に何かが入った。擬音をつけるとすれば、本当に『カポッ』という感じで。
すぐに吐き出しはしたものの、微細なカスが口の中に残って、若干気持ちが悪い。草の味がするから、芝の塊かなにかだろうか。
そんなことも思ったが、強風の最中はそれどころではない。雨も次第に強くなってきて嵐のようだった。
ようやく建物の陰に隠れて待つこと約30分後、ようやく嵐はおさまった。
慣れない雨と風で、すっかり荒れ果ててしまった街を僕はゆっくりと自転車を押しながら歩く。
道路には、風で飛んできたモノやゴミ、そして馬やロバの糞が散乱しており、それらを避けながら歩いた。
道に転がっている馬糞は、乾燥によって芝の塊のようになっていた。
そんな状況を見ながら、僕はふと思った。
「あれ?さっき口に入ってきた草って……」
改めてじっくりと見てみると、それは確信に変わった。
「あの時のは馬糞か!」
初めて口にした馬糞は、少し青くさい若草の味だった。
この経験から学んだこと
- 風が強いときは外を歩かない方が良い
- 乾燥していると信じられないくらい砂塵が舞う
- しゃべりながら(叫びながら)歩かない
- 馬糞は少し青臭い若草の味